woSciTecの考察

サイエンスとテクノロジーに関して、考察するブログです。

新型コロナウィルスの感染ピークはどうやって作られるのか?

はじめに

こちらの記事では、新型コロナウィルスの変異体(亜種)が次々と登場しており、「弱毒化遷移」をしていると考察した。「新型コロナウィルス」とひとくくりにするのはもはや適切ではなく、クラスターごとに病原性をカテゴリー化するなど、病原性が強いものと弱いものを区別する工夫が必要と考えられる。

またこちらの記事では、マスク着用などのディスタンシングが、ウィルスの弱毒化を促進しうる、という可能性について考察した。感染者から排出されるウィルス粒子には、ゲノムに欠失など有害な変異が含まれるもの、すなわち病原性が弱まった変異体が一定の割合で存在していると推察される。このため、接触したのが多数のウィルス粒子であれば、そこには病原性を維持したものが含まれるが、少数のウィルス粒子であれば、病原性が弱まった変異体のみが含まれる可能性が高まると考えられる。つまり、ディスタンシングによって、感染時に接触してしまうウィルス粒子が減れば減るだけ、そこに病原性が弱まったウィルス粒子が含まれる可能性が増える。

本記事では、感染ピークがどのように形成されるのかについて考察する。

お断り

本記事は、筆者の推測に基づきます。筆者は生物学に関わっており、進化について考察することもあるが、進化は専門ではない。

ピークはどう形成されるのか?

現在、第二波が減衰しそうな状況にある。感染者が増えて、その後徐々に減る、というのは4月の第一波で経験されているところである。どのようにして感染者数が増え始めて、どのようにして感染者数が減り始めるのであろうか?

順番が逆であるが、まずどのようにして減り始めるかである。上記の通り、ディスタンシングがしっかりなされている背景では、ウィルスは弱毒化し病原性、感染性が低下する。またしっかりと隔離されてしまえば、次のヒトに感染することもできず、消え去るしかない。これが感染者数が減り始める原因であると推察される。

では、感染者増加はどうであろうか?おそらく病原性を維持した株が、比較的多人数に、ディスタンシングがしっかりしていない状況下で感染性、病原性を維持する形で感染したことに端を発すると考えられる。もしかすると、このような感染が何ラウンドか続くこともあるかもしれない。このような感染をした人が、あちこちで感染のコアとなって感染者を増やすものと考えられる。

病原性を維持した株はどこから現れるのか?

3つの可能性が考えら得る。

1つは海外である。病原性が維持される感染が連続的に起こっている地域では、弱毒化が十分に進んでいないはずである。海外からの人の流入には十分注意すべきである。「新型コロナウィルス 」と一括りにしてしまうと、日本で蔓延した場合に、海外から病原性維持株が安易に持ち込まれる要因となると考えられる。

もう1つは、病原性維持株を保有する無症状感染者である。ただし可能性としては考えられるが、筆者としては懐疑的である。無症状感染者から、新たな感染者が発生して、重症者や死者が多数出たケースがどれくらいあったかを検討すれば、はっきりすると思われるが筆者にはデータがない。

最後に懸念されるのは、ウィルス変異体同士がお互いに遺伝情報を補い合って、フルに機能するウィルスが再構成される可能性である。例えば異なる変異体に感染した二人の感染者間(症状は出ていないかもしれない)で、ウィルスの遺伝情報が混ざり合って、完全に病原性を回復したウィルスが再構成される可能性である。新型コロナウィルスのゲノムにある遺伝子機能はよくわかっていないが、宿主細胞内でのRNA分子間での組換えを促進するような遺伝子が存在して、変異ゲノムが混ざり合って機能するゲノムが再構成されることがあるかもしれない。

今後どのようなことが起こるか?

秋、冬に向けて、乾燥するなどして病原体を排出する能力が弱まり、多数の病原体に接触しやすい環境になると考えられる。このような環境下では、より病原性が維持された感染が起こりやすいと推測される。海外からもちこまれた、あるいは、再構成された病毒性ウィルスが、偶発的に、比較的多人数に、ディスタンシングがしっかりしていない状況下で感染性、病原性を維持する形で広がることが起こるかもしれない。

ピークがどの程度大きくなるかは、初期に、どの程度の規模で広がってしまうかに依存していると考えられる。つまり、初期感染規模に依存してピークの規模が決定されると考えられる。

なにをすれば良いか?

  1. ディスタンシングをしっかりする。ディスタンシングが病原性低下を促進する可能性があることを周知して、ディスタンシングをしっかりと行う。
  2. 規模の大きい三密の回避。規模が大きいと、ピークが巨大化してしまう。
  3. クラスターの株が弱毒化しているかどうかを判定する努力。データさえ公開されれば、賢いプラグラマー、データサイエンティストがなんとしてくれるはずだ。
  4. 「新型コロナウィルス」とひとくくりにすることに対して、注意すべきであることを周知する。病原性が維持されたものと、そうでないものを、一括りにするのは危険だ。
  5. ウィルスゲノムのシーケンシング。無症状者も含めてデータを取るべきだ。配列データから、弱毒化が判定できるかもしれない。
  6. 軽症、無症状感染者間の接触を抑制する。

終わりに

感染者は、新型コロナウィルスの病原性低下に貢献しているとみなすことができる。責めるのではなくて、慰労すべきかと思慮する。