woSciTecの考察

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ディスタンシングが新型コロナウィルスを弱毒化を促進する可能性

新型コロナウィルスに感染して重症化した人がいたとする。この人が咳やくしゃみをした時に、ウィルス粒子を含むエアロゾルが周囲に排出される(咳やくしゃみ以外にも、いろいろな形でウィルス粒子がでてくるだろうが、ここはその話ではない)。

時をさかのぼって、この感染者がウィルス粒子に感染した時のことを考えよう。 ウィルス粒子を含む飛沫を吸い込んで、それが喉の奥に付着して感染を開始したのかもしれないが、この時、この人はしっかりとした病態を引き起こす能力を持ったウィルスに感染したのだ。

では、この人から、排出されるウィルス粒子は、この人に感染したウィルス粒子と同等のものであろうか?おそらくそうではない。 新型コロナウィルスは、2週間に1塩基程度の速度で変異していることが示すように、新型コロナウィルスは正確に自身のコピーを作る能力が低いようだ。

仮に、排出されるウィルス粒子一つ一つについてその中に含まれているRNAゲノムを解読し、この人に感染した時のウィルスのRNAゲノムと比べることができたら、様々な配列上の違いを持ったものが含まれているに違いない。

変異というものは、ほとんどの場合、その生物/ウィルスに何ら影響を与えないが、影響を与えるような変異のうち、大多数は有害なものだ。ウィルスタンパク質の機能上重要なアミノ酸が違うアミノ酸に変わってしまえば、機能を損なうことがあるだろうし、読み枠がずれてしまうような挿入や欠失は、ウィルスの再生産能力に大きな影響を与えるだろう。変異によって遺伝子の機能が向上するよりも、遺伝子の機能が損なわれることがずっと多いであろうことは、生物学者に広く受け入れられている。

ウィルスから見れば、少なくとも短期的には不完全なウィルス粒子が少々混ざっても問題ではない。排出されるウィルス粒子は多数あり、多数のウィルス粒子が次の標的に届けば、その中には機能を十分に維持したウィルス粒子が含まれるからだ。次の感染者の体内で、再生産能力を失うなど有害な変異を有するウィルス粒子は、完全性を保ったウィルス粒子の増加によってたちまち打ち消されて見えなくなってしまうだろう。

新型コロナウィルスが次の新たな宿主に感染するときにはこのようなことが起きているはずだ。これは、新型コロナウィルスが、複製の正確性が低くいという弱点を、多数のウィルス粒子を次の宿主に届かせることで補っていると見ることもできる。

ここで1つの考えが浮かぶ。次のウィルスの標的となる人が、ごく少数のウィルス粒子、例えばたった一つのウィルス粒子を、吸い込むなどした場合はどうなるのだろうか ?(100個のウィルス粒子を含む飛沫が吸い込まれ、そのうち1つだけが細胞に侵入するのに成功したという想像でも良い)

ウィルスのコピー作成の正確性が実際にどうであるか不明であるが、何らかの変異を持ったウィルスが一定の割合で含まれているはずである。このようなウィルスが単独で感染した場合、どうなるであろうか?この変異を抱えたウィルスはあたらしい宿主で増えるしかなく、この変異(基本的にはウィルスにとって不都合である)は次の感染へと受け継がれることになる。

このように、多数のウィルス粒子による感染と、少数のウィルスによる感染では、ウィルスにとって不都合な変異が受け継がれる可能性が異なっているはずである。この考えでは、新たな感染者が接したウィルス粒子が多ければ多いほど、その中に完全性を保った(病原性が維持された)ウィルス粒子が含まれる可能性が高まる。逆に言えば、ウィルス粒子が少なければ少ないほど、(ウィルスにとって)有害な変異を抱えたウィルスが生き残る可能性が高まる。

新型コロナウィルスの感染拡大に伴って、ディスタンシングの重要性が言われている。ディスタンシングは次の標的となる人に達するウィルス粒子の数を減少させ、感染リスクを下げる効果があると広く信じられれている。ここで着目したいのは、ディスタンシングがウィルス弱毒化を促進する可能性があるということだ。感染してしまうにしても、なるべく少ない数のウィルスに感染するように注意すれば、軽い症状で済む可能性が高まり、しかも、弱毒化の促進に貢献できることが期待できる。

日本は、ハグなしホッペキスなし握手なし、の文化である。マスクの着用や、清潔を好む習性が、ディスタンシングによってウィルスの病原性低下を促進しているのかもしれないが、これはいずれゲノム解析によって明らかになるだろう。今後、次のパンデミックに向けて、何が起きていたのかをつぶさに記録し、解明することが極めて重要だろう。

追記

以前の記事がわかりにくいように思えたので、書き直しました。