woSciTecの考察

サイエンスとテクノロジーに関して、考察するブログです。

新型コロナウィルスの弱毒化についての考察

はじめに

新型コロナウィルスは今後どのように変化していくのだろうか?弱毒化するのだろうか?考察する。

お断り

この記事の内容は考察にすぎません。筆者は進化の専門家ではなく、内容について保証するものではありませんのでご了承ください。

先に、結論

  1. 病原性が低下した亜種が大部分を占める状況に向うはず。すでにそうなっているかもしれない。
  2. 「新型コロナウィルス」としてひとくくりにするのはもはや適切ではないかもしれない(病原性にしたがってクラス分けをするなどの工夫が必要)。

背景

新型コロナウィルスは2019年の12月に登場した。およそ30 kbのゲノムサイズであり、2週間に1塩基程度の変異速度である。

変異について

ダーウィンの進化論にのっとって考えれば、生物のゲノム情報には一定の割合で変異が入り、これによって集団に遺伝的な多様性が生まれ、このなかから生存に適したものが生き残ることで、生物は進化する。ほとんどの変異(核酸レベルでの)は、生物の形質に影響を与えないが、少数の変異は、形質に影響を与える。ただし形質に影響を与えるような変異のほとんどは有害な変異であり、有益となる変異は(無視はできないが)まれであると考えられる。ウィルスが生物であるかどうかはこの際置いておくが、この進化論的考え方はウィルスにも当てはまる。

例えば、ウィルスのゲノム1塩基ごとに変異を入れたり、あらゆる場所に挿入や欠失を導入して、あらゆるパターンの変異体についてその病原性を測定できたとする。実際はこのような実験は不可能であるが、もし可能であったとして、病原性が高い順に並び替えて、その病原性をプロットしたら、図のようになるはずだ。

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生じる変異体の病原性分布の想像図

変異が、その生物(含ウィルス)にとって基本的には有害であることは、正しいことのように思われる。

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分子遺伝学が驚異的によくわかる ISBN4-8269-0060-0 C0345 P1800E ラリー・ゴニック、Mホイーリス著 白揚社

短期的な視点と長期的な視点

ウィルス進化については、長期的な視点と、短期的な視点から考察する必要である。長期的な視点は、数十年から数百年のタイムスケールの話であって、変異体間の競合が十分進んだ場合の話である。ここでは長期的な視点からの考察し、ついで短期的な視点からの考察を述べる。

長期的な視点

長期的には、変異によって多様性を獲得したウィルス集団から、生存に適した変異体が選択されることになる。選択によってウィルスにとって有害な変異は淘汰される一方で、有利な変異は固定される。

特に感染性に注目すると、感染性が低下した変異株は徐々に淘汰される一方で、感染性が向上した変異株は、徐々にその数を増す。

感染性が具体的にどのような遺伝子機能によって決定されているのか不明であるが、宿主のくしゃみや咳をより強く頻繁に誘導する形質、感染性のウィルスを排出する期間を長引かせる形質、空気中を遠くまで漂う形質、宿主の免疫系をかいくぐる形質、等が感染性に関与していると考えられる。これら感染性に関わるウィルスの形質については、選択圧が働き、より強化される方向にウィルスは進化するはずである。

一方で、宿主を重症化させたり死亡させたりする形質はどうか?サイトカインストームや血栓を誘発して宿主を死に至らしめるような形質は、選択上、どちらかといえば不利にあると考えられる。

長期的には、変異と選択が繰り返される結果、感染性が増す方向、病原性が低下する方向へとウィルスは進化するはずである。「ウィルスが強毒化しないのは、変異によって強毒化したウィルスが宿主を殺してしまいそれ以上広がれないからである」との表現よりも「強毒化した変異体が、生存上有利となることはなく、選択されないから」と表現するのがよりしっくりくるように思われる。

ただし気をつけたいのは、強毒株は、長期的には淘汰される(=選択されない)であろうが、短期的には発生する可能性があるという点である。

短期的な視点

現在は感染拡大期であるが、ヒトの大多数は免疫を持っておらず、ウィルスはヒトからヒトへと伝播している。この間、ウィルスゲノムには一定の割合で変異が導入されつづける。このとき再生産能力が全く失われたようなウィルス変異体はすぐに淘汰されるが、少々の変異は維持・固定される。変異のほとんどは形質に影響を与えないが、影響を与える変異のうち、ほとんどはウィルスにとって悪影響のある変異である。従って変異が次々に入るにつれて、感染性、病原性ともに低減する。

感染性が一定程度低下すると、その変異株は伝播しにくくなり、集団中の存在割合を減らすだろう。ただし短期的には、そこまで感染性は低下しないと考えれば、短期的には大多数が感染性、病原性ともに低減したウィルスとなる。感染性、病原性が低下してない株の割合はわずかとなり、感染性、病原性が向上した株の割合はごくわずかとなるはずである。おそらく現在、この状況になっているか、少なくとも近づきつつあるはずである。2週間で1変異であれば、おおよそ30 kbのゲノム配列に対して16変異程度が入っているはずであり(執筆現在2020年8月20日)、これはいくばくなりともなんらかの遺伝子機能を低下させ始めていてもおかしくはない。

図は、病原性カテゴリーなるものを考え、カテゴリーS、A、B、C、Dの順に病原性が高いものとしたときに、これらの移り変わりの様子の想像図である。このような、病原性が低下したものの割合が次第に増加するような遷移、いわば「弱毒化遷移」が起こるはずである。

地球上に広がった新型コロナウィルス全体を見渡せば感染性、病原性が低下しない株も一定程度、確率にしたがって維持されているはずであるということには注意しなくてはならない。

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時間経過に伴ってウィルスの病原性が低下する様子の想像図

これらを踏まえて何をすれば良いか

  1. クラスター追跡をしっかり行い、そのクラスター株の病原性をカテゴリー分けする努力をすべきだ。データ解析をしっかりすれば、60歳以上が100人かかってもだれも重症化していないからカテゴリーCであるとか、分類できるかもしれない。強毒株とそうでない株を分けることができれば、経済への影響も少なくなるはずだ。病原性が甚だしく低下したクラスター株が見出されれば、天然ワクチンとして使用できるようになるかもしれない。

  2. データ解析には、データが必要である。統一規格でのデータを収集する仕組みと、データを(個人情報に配慮しつつ)無制限に公開する仕組みが必要だ。民間、大学にはデータ処理ができる人が多数いるが、データにアクセスできる状況にない。ここでデータはグラフにするなどの処理をする前の生データのことである。すでに処理されたデータはそれ以上の処理が難しい。

  3. ゲノム配列を徹底的に読むことが有効だ。1ウィルスゲノムを1つ読む実費はPCR検査費用(2万円)よりも安いと考えられる。大学など既存の施設を使いシステマチックな解析ラインを作れば10億円で1万ウィルスゲノムを1年間で読むことができるだろう。全国10拠点に100億円かければ全患者の配列解析が可能だ。政府主導で手を挙げさせてみれば良い。

  4. 「新型コロナウィルスが弱毒化した可能性がある」という表現は危うい。「弱毒化した新型コロナウィルス亜種が広がりつつある可能性がある」と表現すべきだ。

  5. 引き続き、外国からの帰国者入国者の検査を厳重にすべきだ。海外から、病原性が維持された株が入り込まないように気をつけなくてはならない。

おわりに

2つの考え方、すなわち

  1. 「変異は、ウィルスの形質にとって影響を与えないものが大部分であり、影響を与える変異の大部分は、ウィルスにとって有害な変異である」
  2. 「ヒトからヒトへと次々に伝播する環境下では、直ちにウィルス再生産が不可能になるような変異以外は(短期的には)淘汰されない(ウィルスにとって少々有害な変異も維持される)」

が正しいのであれば、論理的な帰結として、ウィルスのあらゆる形質(感染性、病原性など)が、短期的には、全体として、劣化、低減していく、というのは正しいように思えます。今がどの段階なのか、わかりませんが、「病原性が低下した様々な亜種が次々に生じて大部分を占めるようになる」、というのが私の推測です。

病原性低下を促進するのにマスクが有効かもしれない、という考察想像について次の記事で書きます。この考察想像が正しければ、山中先生のおっしゃるファクターXは、ディスタンシングがもたらした病原性低下の促進かもしれません。

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