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「世界を凌駕する」研究大国の作り方。研究力を低迷させる制度政策が生まれる理由と解決方法

~研究力低迷の背後にある政策課題設定のあり方の見直しの提案~

本記事

本稿では、日本の研究力低下問題に対処するための政策課題設定の改善方法を提案する。具体的には、科学技術・学術政策研究所(NISTEP)の独立性を強化し、内部に民間有識者会議を設置することを提案する。これにより、官僚の無謬性による柔軟性の欠如や財務省の影響力が軽減され、問題に対する理解が深まり、効果的な政策立案が可能となると期待される。本稿では、現行の政策サイクルとその課題、NISTEPのデータ取り扱いの限界、官僚の無謬性とその影響、提案の詳細と期待される効果について順に解説する。

現状の問題点: 日本の研究力低下

近年、日本の研究力の低下が問題視されている。国際的な競争力やイノベーションの創出において、他国に比べ遅れを取っており、このままでは日本の将来が危ぶまれるとの懸念が出ている。様々な施策が実施されてきたが、状況はむしろ悪化しているという現実がある。この問題の根本原因として、政策を作る仕組み自体に問題があると考えられる。今回の記事はその問題点に焦点を当てて考察する。

政策サイクルと課題設定の問題

政策サイクルは、政策課題設定、政策立案、政策決定(予算措置)、政策の実施、政策実施の評価というプロセスから成り立つ。これらのプロセスを適切に進めることが、効果的な政策を生み出すための基本条件である。

しかしながら、現状の日本の研究力低下問題において、政策課題設定の段階で問題が生じていると考えられる。例えば、調査結果により「博士課程への進学者が減っている」と指摘された場合、その原因を十分に考察しないまま、「博士課程への進学者を増加させる」という政策課題が設定されてしまう。これにより、表面的な問題は解決されても、本質的な問題が解決されないままとなる(実際には、教員多忙や学びの質が高くないこと、アカハラの蔓延、研究計画審査によって創造性の発揮よりも作業を求められる研究室環境、競争主義の持ち込みによって人間関係の構築が難しくなったことなど、複合的な原因によって進学者が減っていると考えられる。これらの問題は、経済的支援によって進学率を向上させてもなくならない)。

このような問題が発生する原因として、課題設定の段階で問題の根本原因を徹底的に追求できていないことが挙げられる。政策課題設定がうまく機能しないことで、政策サイクル全体が効果的に進まず、日本の研究力低下問題が改善されないという悪循環が生じている。

NISTEPのデータ取り扱いと問題理解の限界

現在、日本の科学技術政策に関する調査や分析は、NISTEPによって行われている。しかし、NISTEPのデータ分析には問題がある。データの取り扱いが非常に表面的であり、データから読み取れる明確な事実にしか焦点が当たらず、問題の本質や背後にある要因についての考察が十分に行われていない。

研究においては、不確かさを許容しながら仮説を立て、検証を行うことで問題に対する理解を深めることが求められる。しかし、NISTEPの現行の方法では、不確かさを伴う考察や仮説がほとんどなされず、問題理解の向上が図られていない状況である。

このような表面的なデータ取り扱いにより、目に見える不都合のみが政策課題として設定され、本質的な問題へのアプローチがなされないままとなっている。その結果、対症療法的な政策が生まれてしまい、日本の研究力低下問題の解決につながらないという事態が続いている。

官僚の無謬性とその影響

日本の官僚は、極めて優秀でありながら、間違いを犯すことを非常に恐れる性質がある。この無謬性が問題解決に役立つ柔軟な考察を阻害する要因となっている。官僚が無謬性を重視するあまり、データの分析や課題設定に対しても、リスクを回避し、既存の枠組みや表面的な情報に依存した取り組みが行われてしまう。

この結果、政策課題設定の段階で既存の枠組みに囚われたまま、問題の根本原因や背後にある構造についての深い洞察が欠如してしまう。この官僚の無謬性が、問題解決に向けたより効果的な政策立案や実施を妨げる要因となり、研究力低下問題の解決につながらないままとなっている。

官僚が無謬性にとらわれずに十分に実力が発揮できるような環境を考える必要がある。以下に2点を提案する。

提案1: NISTEPの独立性強化と有識者会議設置

問題解決のために提案するのは、NISTEPの独立性を強め、内部に民間人よりなる有識者会議を設置することである。この変更により、政策課題設定の主役が、形式上、官僚から民間人に移り、官僚が柔軟な考察をすることが可能となる。

官僚は賢い人たちであり、民間人を主役にすることで、無謬性のプレッシャーから解放されることが期待できる。これによって、問題の本質を追求し、解決に向けた効果的な政策を立案・実施することが可能となる。

提案2: NISTEPの独立性確保

財務省は日本の政策立案において強い影響力を持ち、科学技術政策にもその影響が及んでいる。現状では、NISTEPも財務省の影響下にあるため、政策課題設定が財務省の方針に沿ったものになりがちである。しかし、科学技術政策の課題設定は財務省ではなく、専門的知識を持つ者たちが主導するべきである。

NISTEPの独立性を強め、財務省の影響力を減らすために、以下のような方策が有効である。

有識者会議のトップを閣僚にする: これにより、政策立案の権限が閣僚に委ねられ、財務省の影響力が相対的に減少するだろう。

NISTEPの所属を内閣府に移す: 現在の文部科学省の下部組織から、内閣府に移すことで、財務省の影響力が直接及ばないような位置付けに変更することが可能である。

これらの変更を実現することで、NISTEPはより独立した立場で政策課題設定ができるようになり、科学技術政策における問題解決に向けた効果的な取り組みが期待できるであろう。

期待される効果と展望

上記の提案によって、NISTEPの独立性が強化され、政策課題設定のプロセスが改善されることが期待される。具体的な効果として以下のようなものが挙げられる。

問題理解の向上

無謬性の排除によって、問題に対する理解が徐々に深まる体制が構築される。いずれは問題の全体像がはっきりするようになる。

効果的な政策立案

問題理解が深まる結果、課題設定が適切になり、それに基づいた効果的な政策が立案されるようになる。

アカデミアの環境改善

本質的な問題解決に向けた政策が実施されることで、アカデミアの環境が改善され、研究者や学生たちがより良い条件で研究に取り組めるようになる。

研究力の向上

日本の研究力低下の問題は、次第になくなっていき、ついには「世界を凌駕する」研究大国となる。

政策立案の透明性向上

NISTEPの独立性が強化されることで、政策立案のプロセスがより透明化され、市民にとっても理解しやすくなる。

このような効果が期待される一方で、実際に提案が実現されるまでには、本記事で述べたような「政策課題設定のあり方の問題」に注目が集まり議論が盛んになること、政治主導でこれらの枠組みが整えられることが必要だと思われる。

日本の研究力を再び高め、世界を凌駕する研究大国へと至るには、この記事で述べたような取り組みが不可欠であり、さらなる議論や提案が期待される。