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日本の研究力向上を達成するための方法を模索する シリーズ6回目 研究組織の組織不全と改善策

はじめに

日本の研究力向上を達成するための方法を模索する シリーズ6回目です。

  1. シリーズ1回目 学振のPD研究室移動義務
  2. シリーズ2回目 科研費申請書が研究の技術的側面を軽視
  3. シリーズ3回目 擬似成果主義。成果期待主義?申請書主義?
  4. シリーズ4回目 研究組織と個々の研究者の分断問題
  5. シリーズ5回目 ディストピアに予想される3つの不都合
  6. シリーズ6回目 研究組織の組織不全と改善策
  7. シリーズ7回目 研究機器を研究者が購入できる制度
  8. 関連記事 第6期科学技術イノベーション基本計画によって大学など研究組織の任期制は廃止に向かうはず。

今回は、大学など研究組織の組織不全、について述べたいと思います。

関連する過去記事の内容

シリーズ第4回では、「予算の壁」と「業績の壁」が、これまである程度機能していた組織を解体し、弱い個の集合へ向かっているとの見方を示した。

シリーズ第5回では、分断され、連携/協調関係を失った研究室間に漂う緊張感から、派生してくる3つの問題、すなわち「授業」、「共通機器」、「人事」に生じる不都合な状態を指摘した。

これらは、日本の研究力向上を阻害する強力な要因だと筆者は見ている。

今回(シリーズ第6回)は、分断によって、研究組織の組織階層が消滅し機能しなくなってきている点について指摘し、改善策を提案する。

組織階層の消滅

組織が大きいこと自体は喜ばしいことだ。問題は組織編成のあり方だ。

内部分断が進んだ研究組織では、研究室間のつながりが弱くなり、たくさんの利益追究主体たる研究室が、個別に存在した状態になる。

例えば、30から50もの研究室が、他の研究室との希薄な関係でしか繋がらずに、存在するような状態となる。

組織表では、「研究室」を束ねたものが「学科」、学科を束ねたものが「専攻」、「専攻」を束ねたものが「研究科」というようになっているかもしれないが、

このような状態においては、「学科」とか「専攻」とかいった中間的階層が、(協力関係にないという点で)消滅しているとみることができる。

組織階層が消滅した大きすぎる組織の問題点

中間的階層が消滅した組織状態になると、その組織の発展に成員が無頓着になる。すなわち各研究室は研究組織の発展を考えなくなる。

これは研究室が組織の発展に貢献したとしても、その効果を感じることができないからだ。

論文を年に数報余計に書いたところで、多数の研究室の多数の成果に埋もれてしまって、組織の発展に貢献したのかどうかわからなくなってしまう。

そもそも、ある研究室が良い成果を出したことが、組織の発展につながったのかを考えることもなくなる。

特段骨を折って、組織のために貢献しても、組織が大きすぎるために他の成員に十分にリスペクトされることはない。

階層を失った大きすぎる研究組織では全研究室が、所属組織の傍観者になってしまう。

組織階層の再生

分断された研究室を再統合し、強力に連携し、お互いに助け合う研究組織にするにはどうすれば良いだろうか?

現状の問題点は、研究室同士をつなぎとめる制度的な力が弱すぎる点にあった。

またそもそも、個を分断していた要因の1つは業績の壁であった。であれば、個の業績評価から、中間組織の業績評価へと重点を移した制度を設計すれば良い。

ここで2つの説を採用したい。

  1. 「人間がお互いによく知ることで機能できる組織の大きさは150人が限界である」という説と、
  2. 「会議で意見が出るのは参加者が6人以下である場合である」という説だ。

これに則って、「6研究室あるいはその成員が150人を超えない」ように「学科」を作り、6個以下の「学科」を束ねて、「専攻」とし、6個以下の「専攻」を束ねて「研究科」とする。

研究科長は、専攻を評価して、評価に応じて褒美*を配分し、 専攻長は、学科を評価して、評価に応じて褒美を配分し、 学科長は、研究室を評価して、評価に応じて褒美を配分し、 研究室は、研究室の成員を評価して、評価に応じて褒美を配分することにする。

*褒美: インセンティブを与える何かをここでは褒美と呼ぶことにした。

ここまで細分化する必要はないかもしれないが、自身の行動が自身の所属組織の発展に良い影響を与えたかどうかが感じられるサイズにすることは極めて重要と思われる。

ある研究室のメンバーには、同学科内の他メンバーをサポートするインセンティブが生じ、密接な協力関係が生まれるだろう。同専攻内でも同様だ(幾分インセンティブは弱まるかもしれない)。

研究科が研究機関に属しており、成果に連動して褒美が配分されることになっているならば、研究科内の他メンバーをサポートするインセンティブも生じる。

チーム

成員が制度的に形成されたインセンティブで繋がった協力関係にある組織を仮にはここではチームと呼ぶことにする。

組織を再生すれば上記の問題が全て解決する

授業については、戦力たる学生を、最も効率良く伸ばすための授業スキームが生み出されるだろう。

機器は当然、共用される。チーム内に、あまり使われない機械がいくつもあるということは防がれる。

人事の問題も解決する。成果を出せる人がチームに入る方が断然有利だからだ。チームに足りない技術を持っている人も重宝されるだろう。

チームの発展を考えたら、真剣にチームからの業績に貢献できる人を選ぶことになる。必要があればチーム強化のためのトレードもあるだろう。

要はどこかの大学が始めてみることだ

研究者はバラバラに分断されていて、弱い個の集合になりつつある、あるいはもうなってしまった。

分断しているのは業績の壁と予算の壁だ。分断を解消し、協力関係が構築されるように、組織の業績に基づく評価システムをデザインし直さなくてはならない。

ここで述べた方法を、取り入れた研究組織は、急激に発展し、成果が続出するだろう。

となれば、雪崩をうって全ての研究組織がこの方式に変更するのではないかと期待している。

まとめ

日本の研究現場は、業績と予算のあり方のために、個への分断が進行しており、協力関係が失われてしまった。これが研究力低迷問題点の主要因の1つである。

分断されてしまった個の集合を、再結合させて良く機能する組織へと再編成するには、協力関係が再構築されるようなインセンティブが働くような組織の制度を再設計する必要がある。