woSciTecの考察

サイエンスとテクノロジーに関して、考察するブログです。

日本の研究力低下の要因を考察する シリーズ2回目 科研費申請書が研究の技術的側面を軽視

はじめに

日本の研究力低下が言われている。研究費配分の問題など、様々な観点から議論がなされているが、本シリーズでは筆者が考える要因と解決策を考察する。

  1. シリーズ1回目 学振のPD研究室移動義務
  2. シリーズ2回目 科研費申請書が研究の技術的側面を軽視
  3. シリーズ3回目 擬似成果主義。成果期待主義?申請書主義?
  4. シリーズ4回目 研究組織と個々の研究者の分断問題
  5. シリーズ5回目 ディストピアに予想される3つの不都合
  6. シリーズ6回目 研究組織の組織不全と改善策
  7. シリーズ7回目 研究機器を研究者が購入できる制度
  8. 関連記事 第6期科学技術イノベーション基本計画によって大学など研究組織の任期制は廃止に向かうはず。

科研費の研究計画調書

今回は科学研究費補助金、いわゆる科研費の研究計画調書に着目したい。これを書いて応募すれば、審査されて、審査が通れば研究費がももらえる仕組みだ。研究計画調書には、研究目的と研究方法を記載する箇所があり、その冒頭には以下のように記されている。

f:id:woSciTec:20201017183859p:plain
基盤Bの研究計画調書

ここで問題としたいのは「(3) 本研究で何をどのように、どこまで明らかにしようとするのか、」というところだ。

研究は2分類できる

研究は大きく2つに分けることができる。知識や知見を得ようとする研究、そして、技術を開発しようとする研究、だ。前者はScience、後者はTechnologyに属する研究だと言えるだろう。

どの論文(reviewは除く)を読んでも、論文について、新しい技術が何であるかと、新しい知識(発見)が何であるか、に分けてを論じることができる。

この2つは車輪の両輪だ。知識的側面が技術を作り出し、技術が知識的側面を作り出す。研究に必要なのは、この両方だ。

科研費の研究計画調書の問題点

科研費の計画調書の様式は、「科学(Science)」に偏っている。言い換えればこの計画調書では、「技術(Technology)」を軽視している。これは、「(3) 本研究で何をどのように、どこまで明らかにしようとするのか、」の文言からわかる。この記述項目では完全に「科学/知識」に属することを書かせようとしており、技術に関する研究をしようとした時に書くことができない。技術的な開発を主にした研究については、計画調書をうまく書くことができないのだ。

サンガー法やPCR法はノーベル賞を受賞した。これらは強烈なインパクトを与えたが、仮に現在サンガー法やPCR法がまだ開発されておらず、その着想を得たとしよう。これを現在の科研費の計画調書に落とし込むことができるだろうか?無理だ。「(3) 本研究で何をどのように、どこまで明らかにしようとするのか」が書けないのだ。

無理をすれば、「どのように塩基配列を決定すれば良いかを明らかにする」「どのようにDNAを増幅すれば良いかを明らかにする」ということになるだろうが、計画調書が研究の技術的側面をおろそかにしていることは間違いがない。

またさらに一歩踏み込めば、計画調書で、技術的進歩が何であるかを問う項目がない。このような項目がないために、技術開発の重要性が意識されない空気が醸成されてしまっている。

解決方法

一番良いのは、文部科学省の名称を変更することだ。文部科学技術省が良い。日本は科学技術立国だと言う。科学立国ではないのだ。

科学研究費補助金も科学技術研究費補助金、科技研費とすべきだ。

また研究計画調書での記載項目それぞれについて、科学的側面と技術的側面の両方に配慮した文言に変更すべきだ。

例えば「本研究で何をどのように、どこまで明らかにしようとするのか、あるいは、研究に関する技術を開発する場合はどのような技術を開発しようとするのか」とすればよい。

またさらに、技術的な進歩が見込まれることが評価されるように、「本研究で見込まれる技術的進歩があれば記載してください」との項目を新たに設けるべきだ。

終わりに

科研費は日本の研究の中核を担っている予算源です。科研費の申請書類が技術の発展を十分に考慮していないことが日本の研究力低下の一つの要因となっていると筆者は思っています。

本記事では、科研費の研究計画調書に目を向けてみました。コメントなど残していただけますと幸いです。そうだなと思ったら、拡散もお願いします。