woSciTecの考察

サイエンスとテクノロジーに関して、考察するブログです。

「資化」という言葉についての行き違い。

はじめに

微生物系の研究では「資化」という言葉がある。ところがこの言葉には2通りの解釈があって、混乱をきたしている。どういうことか考察する。

2つの資化の意味

例えば、「大腸菌グルコースを資化する」とか「大腸菌グルコースの資化能を有する」とか「大腸菌グルコース資化性である」と言う。どれも同じ意味である。

この時、「グルコースを単一炭素源で生育できる」という意味であると受け止める人と、「グルコースを単一炭素源で生育できるかどうかではなく、グルコースをエネルギー源、炭素源として利用できるという意味である」と受け止める人がいる。これでは噛み合わない。

筆者は後者の立場だ。

言葉の意味から考える

言葉の意味から考えれば、「資」には資材、資源、発展に資する、とかそう行った意味であり、資化は「資材と化す」あるいは、「生育を資するものへと化す」との意味と考えることができる。国語の辞書を開いても、おおよそこのような意味だ。

単一炭素源として利用できなくても、「生育を資するものへと化している」ことはが確認できることは多々ある。例えば、栄養培地に、グルコースを加えた場合に、最終的な培養液の濁度が加えたグルコース濃度に応じで高くなるような場合だ。

また最近では、テトラゾリウムという物質が利用可能である。テトラゾリウムは、電子伝達系が動いた時に、流れた電子をかすめ取って還元され、紫色に発色する。グルコースを与えたときに、電子伝達系が動くなら、グルコースから還元力を取り出せているとみることができ、この場合、資化している、とみなすことができる。

単一炭素源で生育できるときに「資化する」と言い、単一炭素源で生育しないときに「資化しない」とするのは、言葉の意味から考えればおかしいことと思われる。

ではなぜ、単一炭素源で生育するかどうか、であるとする人がいるのか?

おそらく、かつては微生物の同定に生化学試験なるものが盛んに行われており、この時、様々な炭素源を単一炭素源として利用可能であるか調べ、その生物の性質として記録していったと思われる。

この時、グルコースを単一炭素源として生育可能であれば、グルコース資化性プラス、生育不可能であれば、グルコース資化性マイナス、と記録したのだと思われる。

この慣習によって、「資化性があるということは、単一炭素源として生育できるということであり、資化性がないとは、単一炭素源として生育できないことである」、と「資化」という言葉が言わば専門用語となり、資化の言葉の元々の意味が失われることとなったものと推察される。

今後

現在ではテトラゾリウムを利用した試験方法が主に用いられている。このような背景のもと、「単一炭素源として生育できる/できない」との意味で使用されることは、徐々に減っていくと思われる。

ここで、資化とはエネルギー源あるいは炭素源として利用できるという意味であるという立場をとったとする。会話の相手が「資化」という言葉を使った時、どちらの意味で使っているかは問題ではない。これは会話の相手がどちらの立場であったとしても、エネルギー源あるいは炭素源として利用できることには違いがないからだ。問題は、こちらがこの言葉を使う時だ。こちらが「資化能がある」といった時に、「単一炭素源として生育できるんですか?アミノ酸要求性があるとおっしゃいましたよね?」とかそういうレスポンスが返ってくる時があるのだ。ああ、またこれか.......これからはこのページへのリンクを送ることにしよう。

言葉を共有できていないと議論がしにくい。いっそ、資化という言葉を使うのはやめてしまって「エネルギー源として利用可能」「生育基質として利用可能」「エネルギー源として利用可能」という表現を用いたほうが行き違いを避ける上では良い方法かもしれない。

キリンの角の役割。私は見た。

キリンの角

キリンにはツノがある。結構大きめなツノだ。何本かあるようだが、特に2本が大きくて、先端が膨らんでいる。いったいこのツノはなんのためにあるのだろうか?

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キリンのツノ

結論

ツノは高いところの木の葉を食べるためにある。

私の観察

数年前のことだ。仙台市八木山動物公園を訪れた。そこでは、屋外でのキリンの様子を見ることができる。キリンが放牧されたエリアは割と広く、エリア内には木が何本も生えている。

放牧されたキリンは放牧地に生えている木の葉を食べることができるようになっている。下の方の、容易に食べられるところの葉はすでに食べ尽くされていた。残っているのは高いところの枝の葉だけだ。

そこで見たキリンは、高いところの枝の葉を食べようとしていた。キリンは舌が長く、高いところの枝を、舌を巻きつけて引き寄せることができる。

高いところにある葉がついた枝を舌を伸ばして引き寄せて食べるうちに、この枝のそばの枝がツノにひっかかった。

この時、舌で引き寄せていた枝はしなっており、ツノにひっかかっていなければすぐに元の位置へと戻ってしまっただろう。

ところが、ツノに引っかかっているおかげで、キリンは舌を一旦はなして、別のより高いところの枝に舌を伸ばしてつかまえることができた。

考察

キリンのツノは、より高いところの葉を食べるための役割を持っている。ツノは、枝を一時的にホールドして、より高いところの枝葉に舌を伸ばす上で機能している。

キリンの首は、高いところにある枝葉を食べるために伸びたのだ、と進化論の説明によく使われている。同じ理由で、キリンのツノは今あるような形になったのだと考えられる。先端が丸く膨らんだ形状は、枝を効率よくホールドするためかもしれない。

多くの動物園では、刈り取った枝葉を餌として与えているかもしれない。上記の観察の後で、京都市の動物園に行ってみたが、刈り取った枝を餌として与えていた。八木山動物公園のように、キリンを放牧しており、放牧エリアの木の枝の下の方の葉をあらかた食べてしまったような場合に限って、ツノの役割を観察できるのかもれない。

自然界でも、干ばつなどで木の下の方の葉を食べ尽くし、木の上の方の枝葉を食べなくてはならないような限られた状況下でのみ、上記の角の役割を観察できるのかもしれない。

終わりに

筆者は動物行動学者ではない。上記の観察はただ一頭のキリン(多分、ゆうき君)の観察に基づき、不覚にも写真も動画もない。観察から何年か経つが、当時調べた限り、キリンのツノの役割として、高いところの葉を食べるためである、という記載は見当たらなかった。この説に新規性があるかどうか調べ、動物園や実際の生息地を巡ってキリンの行動を観察して、論文にするのは私にはできそうにもない。

ここで述べたのは、仮説に過ぎないが確からしく思える。ただし科学的に受け入られるには、論文にしなくてはならない。誰か.....

潜伏期間に新型コロナウィルスは何をしているのか?

はじめに

新型コロナウィルスは、感染から発症まで最長2週間かかるということである。この間、何が起こっているのであろうか?

お断り

この記事は、多分に想像に基づき、科学的エビデンスには基づきません。

発症とは?

発熱にせよ、咳にせよ、だるさにせよ、これらは我々の体が、新型コロナウィルスの存在に気がついて応答を始めたということなのだと思われる。

ロキソニンという薬があるが、これはプロスタグランジンという痛み物質の生合成の阻害剤とのことである。プロスタグランジンの生合成を阻害すると発熱が抑制される、ということは、発熱という現象は、ウィルスの直接的な作用によって体温が上昇するものではなく、我々の体の防御機構が働いた結果として、発熱している、ということである。

ウィルスがかなり増殖するなどして、体の免疫機構が感知してはじめて、発熱などの症状が現れるのだ。おそらく発熱は能動的な応答と言ってよい。 (味覚嗅覚の異常が症状として言われているが、これらは受動的な反応かもしれない)。

潜伏期間は、ウィルスが結構増え、体がそれを感知して、「何かいるぞ!排除するぞ!」となるまでの期間であると考えることができる。無症状だったが、検査をしたら肺に影があったとか、無症状だったが感染が発覚し、その後症状が出た、と言うような記事は何度か目にした。

これらのことからは、発症とは、我々がウィルスの存在に気がついて、防御機構を発動するということであると考えられる。

なぜ潜伏期間が長かったり短かったりするのだろうか?

おそらく潜伏期間は、感染者によって異なる。情報元を押さえてはいないが、平均4、5日、最長2週間ということだったと思う。潜伏期間の長短は、感染者の免防機構の応答性によって決まっているのかもしれないが、ここでは異なる可能性について述べる。

その可能性について述べる前に、前提を述べておく。詳細はこちらの記事を参照してほしいが、おそらく新型コロナウィルスは、複製能力に欠陥があり、感染者から排出されるウィルス粒子の一定の割合は(ウィルスにとって有害な)変異を抱えている。変異は偶発的なもので、ウィルス粒子によって変異は異なっている。

遺伝的欠陥を有するが、完全に毒性を失ってしまってはいないようなウィルスが複数種類生じ、これらが同じ人に感染することを考える。これらは感染者体内で時間をかけてゆっくりと増殖し、数を徐々に増やす。ある時、2種類のウィルスが同時に同じ細胞に偶発的に感染し、この細胞内で遺伝情報の交換が起きる。これによって変異の悪影響をまぬがれたウィルス粒子が再構成されて、急激に増殖して、発症へと至るのではないか?

言い換えれば、潜伏期間(特に長い潜伏期間)には、複数の変異ウィルスが変異をお互いに補い合って、機能するウィルスゲノムを再構成している可能性がある。

推測の推測

若者/子供は、発症しにくいとされている。また(これも引用は示せないが)、子供は新型コロナウィルスが人細胞に侵入するときの人細胞上のタンパク質ACE2受容体の発現量が少ないとされている。ACE2受容体の数は、ウィルスへの感染のしやすさに加えて、2つ以上の変異ウィルスが同じ細胞に同時に感染する確率を決定しているのではないか?

ほとんどの細胞がACE2受容体を発現しておらず、1つだけ発現しているような細胞が大多数ある、という状況下では、上記のゲノム再構成が起こりにくい。これが、若者/子供が発症しにくい理由の1つではないだろうか?

終わりに

この記事は想像に基づく。エビデンスが出るまでは明らかではない、というのは科学的に正しい姿勢だが、一方でエビデンスがしっかり出るまではなにもわからない、のは残念である。いまコロナ渦中にあって、エビデンスが出る前に、いくばくなりとも何が起きているのかについて、考えられる可能性を考察して提示できれば、と思っている。

ここで述べた可能性については、正しいか、正しくないか、時間をかけて解き明かされるかもしれない。

ディスタンシングが新型コロナウィルスを弱毒化を促進する可能性

新型コロナウィルスに感染して重症化した人がいたとする。この人が咳やくしゃみをした時に、ウィルス粒子を含むエアロゾルが周囲に排出される(咳やくしゃみ以外にも、いろいろな形でウィルス粒子がでてくるだろうが、ここはその話ではない)。

時をさかのぼって、この感染者がウィルス粒子に感染した時のことを考えよう。 ウィルス粒子を含む飛沫を吸い込んで、それが喉の奥に付着して感染を開始したのかもしれないが、この時、この人はしっかりとした病態を引き起こす能力を持ったウィルスに感染したのだ。

では、この人から、排出されるウィルス粒子は、この人に感染したウィルス粒子と同等のものであろうか?おそらくそうではない。 新型コロナウィルスは、2週間に1塩基程度の速度で変異していることが示すように、新型コロナウィルスは正確に自身のコピーを作る能力が低いようだ。

仮に、排出されるウィルス粒子一つ一つについてその中に含まれているRNAゲノムを解読し、この人に感染した時のウィルスのRNAゲノムと比べることができたら、様々な配列上の違いを持ったものが含まれているに違いない。

変異というものは、ほとんどの場合、その生物/ウィルスに何ら影響を与えないが、影響を与えるような変異のうち、大多数は有害なものだ。ウィルスタンパク質の機能上重要なアミノ酸が違うアミノ酸に変わってしまえば、機能を損なうことがあるだろうし、読み枠がずれてしまうような挿入や欠失は、ウィルスの再生産能力に大きな影響を与えるだろう。変異によって遺伝子の機能が向上するよりも、遺伝子の機能が損なわれることがずっと多いであろうことは、生物学者に広く受け入れられている。

ウィルスから見れば、少なくとも短期的には不完全なウィルス粒子が少々混ざっても問題ではない。排出されるウィルス粒子は多数あり、多数のウィルス粒子が次の標的に届けば、その中には機能を十分に維持したウィルス粒子が含まれるからだ。次の感染者の体内で、再生産能力を失うなど有害な変異を有するウィルス粒子は、完全性を保ったウィルス粒子の増加によってたちまち打ち消されて見えなくなってしまうだろう。

新型コロナウィルスが次の新たな宿主に感染するときにはこのようなことが起きているはずだ。これは、新型コロナウィルスが、複製の正確性が低くいという弱点を、多数のウィルス粒子を次の宿主に届かせることで補っていると見ることもできる。

ここで1つの考えが浮かぶ。次のウィルスの標的となる人が、ごく少数のウィルス粒子、例えばたった一つのウィルス粒子を、吸い込むなどした場合はどうなるのだろうか ?(100個のウィルス粒子を含む飛沫が吸い込まれ、そのうち1つだけが細胞に侵入するのに成功したという想像でも良い)

ウィルスのコピー作成の正確性が実際にどうであるか不明であるが、何らかの変異を持ったウィルスが一定の割合で含まれているはずである。このようなウィルスが単独で感染した場合、どうなるであろうか?この変異を抱えたウィルスはあたらしい宿主で増えるしかなく、この変異(基本的にはウィルスにとって不都合である)は次の感染へと受け継がれることになる。

このように、多数のウィルス粒子による感染と、少数のウィルスによる感染では、ウィルスにとって不都合な変異が受け継がれる可能性が異なっているはずである。この考えでは、新たな感染者が接したウィルス粒子が多ければ多いほど、その中に完全性を保った(病原性が維持された)ウィルス粒子が含まれる可能性が高まる。逆に言えば、ウィルス粒子が少なければ少ないほど、(ウィルスにとって)有害な変異を抱えたウィルスが生き残る可能性が高まる。

新型コロナウィルスの感染拡大に伴って、ディスタンシングの重要性が言われている。ディスタンシングは次の標的となる人に達するウィルス粒子の数を減少させ、感染リスクを下げる効果があると広く信じられれている。ここで着目したいのは、ディスタンシングがウィルス弱毒化を促進する可能性があるということだ。感染してしまうにしても、なるべく少ない数のウィルスに感染するように注意すれば、軽い症状で済む可能性が高まり、しかも、弱毒化の促進に貢献できることが期待できる。

日本は、ハグなしホッペキスなし握手なし、の文化である。マスクの着用や、清潔を好む習性が、ディスタンシングによってウィルスの病原性低下を促進しているのかもしれないが、これはいずれゲノム解析によって明らかになるだろう。今後、次のパンデミックに向けて、何が起きていたのかをつぶさに記録し、解明することが極めて重要だろう。

追記

以前の記事がわかりにくいように思えたので、書き直しました。

新型コロナウィルスの感染ピークはどうやって作られるのか?

はじめに

こちらの記事では、新型コロナウィルスの変異体(亜種)が次々と登場しており、「弱毒化遷移」をしていると考察した。「新型コロナウィルス」とひとくくりにするのはもはや適切ではなく、クラスターごとに病原性をカテゴリー化するなど、病原性が強いものと弱いものを区別する工夫が必要と考えられる。

またこちらの記事では、マスク着用などのディスタンシングが、ウィルスの弱毒化を促進しうる、という可能性について考察した。感染者から排出されるウィルス粒子には、ゲノムに欠失など有害な変異が含まれるもの、すなわち病原性が弱まった変異体が一定の割合で存在していると推察される。このため、接触したのが多数のウィルス粒子であれば、そこには病原性を維持したものが含まれるが、少数のウィルス粒子であれば、病原性が弱まった変異体のみが含まれる可能性が高まると考えられる。つまり、ディスタンシングによって、感染時に接触してしまうウィルス粒子が減れば減るだけ、そこに病原性が弱まったウィルス粒子が含まれる可能性が増える。

本記事では、感染ピークがどのように形成されるのかについて考察する。

お断り

本記事は、筆者の推測に基づきます。筆者は生物学に関わっており、進化について考察することもあるが、進化は専門ではない。

ピークはどう形成されるのか?

現在、第二波が減衰しそうな状況にある。感染者が増えて、その後徐々に減る、というのは4月の第一波で経験されているところである。どのようにして感染者数が増え始めて、どのようにして感染者数が減り始めるのであろうか?

順番が逆であるが、まずどのようにして減り始めるかである。上記の通り、ディスタンシングがしっかりなされている背景では、ウィルスは弱毒化し病原性、感染性が低下する。またしっかりと隔離されてしまえば、次のヒトに感染することもできず、消え去るしかない。これが感染者数が減り始める原因であると推察される。

では、感染者増加はどうであろうか?おそらく病原性を維持した株が、比較的多人数に、ディスタンシングがしっかりしていない状況下で感染性、病原性を維持する形で感染したことに端を発すると考えられる。もしかすると、このような感染が何ラウンドか続くこともあるかもしれない。このような感染をした人が、あちこちで感染のコアとなって感染者を増やすものと考えられる。

病原性を維持した株はどこから現れるのか?

3つの可能性が考えら得る。

1つは海外である。病原性が維持される感染が連続的に起こっている地域では、弱毒化が十分に進んでいないはずである。海外からの人の流入には十分注意すべきである。「新型コロナウィルス 」と一括りにしてしまうと、日本で蔓延した場合に、海外から病原性維持株が安易に持ち込まれる要因となると考えられる。

もう1つは、病原性維持株を保有する無症状感染者である。ただし可能性としては考えられるが、筆者としては懐疑的である。無症状感染者から、新たな感染者が発生して、重症者や死者が多数出たケースがどれくらいあったかを検討すれば、はっきりすると思われるが筆者にはデータがない。

最後に懸念されるのは、ウィルス変異体同士がお互いに遺伝情報を補い合って、フルに機能するウィルスが再構成される可能性である。例えば異なる変異体に感染した二人の感染者間(症状は出ていないかもしれない)で、ウィルスの遺伝情報が混ざり合って、完全に病原性を回復したウィルスが再構成される可能性である。新型コロナウィルスのゲノムにある遺伝子機能はよくわかっていないが、宿主細胞内でのRNA分子間での組換えを促進するような遺伝子が存在して、変異ゲノムが混ざり合って機能するゲノムが再構成されることがあるかもしれない。

今後どのようなことが起こるか?

秋、冬に向けて、乾燥するなどして病原体を排出する能力が弱まり、多数の病原体に接触しやすい環境になると考えられる。このような環境下では、より病原性が維持された感染が起こりやすいと推測される。海外からもちこまれた、あるいは、再構成された病毒性ウィルスが、偶発的に、比較的多人数に、ディスタンシングがしっかりしていない状況下で感染性、病原性を維持する形で広がることが起こるかもしれない。

ピークがどの程度大きくなるかは、初期に、どの程度の規模で広がってしまうかに依存していると考えられる。つまり、初期感染規模に依存してピークの規模が決定されると考えられる。

なにをすれば良いか?

  1. ディスタンシングをしっかりする。ディスタンシングが病原性低下を促進する可能性があることを周知して、ディスタンシングをしっかりと行う。
  2. 規模の大きい三密の回避。規模が大きいと、ピークが巨大化してしまう。
  3. クラスターの株が弱毒化しているかどうかを判定する努力。データさえ公開されれば、賢いプラグラマー、データサイエンティストがなんとしてくれるはずだ。
  4. 「新型コロナウィルス」とひとくくりにすることに対して、注意すべきであることを周知する。病原性が維持されたものと、そうでないものを、一括りにするのは危険だ。
  5. ウィルスゲノムのシーケンシング。無症状者も含めてデータを取るべきだ。配列データから、弱毒化が判定できるかもしれない。
  6. 軽症、無症状感染者間の接触を抑制する。

終わりに

感染者は、新型コロナウィルスの病原性低下に貢献しているとみなすことができる。責めるのではなくて、慰労すべきかと思慮する。

新型コロナウィルスの弱毒化をマスク着用が促進するか?

はじめに

現在、第二波がピークアウトしそうな状況です。前回の記事では、新型コロナウィルスが弱毒化遷移によって、大多数が弱毒化した亜種になりつつあるのではないかと考察しました。今回は、マスク着用などのディスタンシングが新型コロナウィルスの弱度化を促進する可能性について述べます。

お断り

この記事は多分に推測に基づいており、科学的なエビデンスには必ずしも基づきません。

前提

感染者が咳などで排出したウィルス粒子には、不完全のものが、かなりの割合で含まれていることが可能性として考えられる。不完全なウィルス粒子とは、遺伝情報であるRNAが含まれない、あるいは、部分的に欠損しているとか、重要な遺伝子の機能が弱まるような変異が入っているとか、そういったウィルス粒子である。

dosage effect (量的効果)

まだ感染していない人が、感染者からウィルス粒子を受け取って感染するときのことを考える。ウィルス粒子を多数受け取れば、その中に感染性、病原性を十分に維持した株が含まれている可能性が高まる。逆に、ウィルス粒子の数が少なければ、そこに感染性、病原性を十分に維持した株が存在しない可能性が高まる。

このように、多量のウィルス粒子に接して感染した場合と、少量のウィルス粒子に接して感染した場合では、感染性、病原性を十分に維持した株が含まれている可能性が異なると考えられる。

多量のウィルス粒子に接して感染した場合では、完全なウィルス、不完全なウィルス間の競合では完全なウィルスが勝利し、ほぼウィルス機能が損なわれることなく(病原性を維持したまま)次のヒトに感染を広めることになるものと考えられる。

一方で、少量のウィルス粒子にさらされ、感染性や病原性が弱まったウィルスのみを受け取った場合はどうであろうか?弱まったとは言え、次のヒトに一定の割合で感染を広めるであろうが、伝達されるのは、感染性、病原性が多少低下した変異体である。

このように考えれば、マスクをしっかりとするなど、フィジカルディスタンシングをしっかり行うと、新規感染時にウィルス粒子摂取量が減るために、弱毒化を推進する効果があると考えられる。

山中先生が仰る、未知のFactor Xは、フィジカルディスタンシングをしっかり行うことができた、社会的状況である可能性が考えられる。フィジカルディスタンシングがしっかりできているために、日本ではウィルスが強病原性を維持しにくい環境となっているのかもしれない。

おまけ

ウィルスの潜伏期間が最長2週間と長いのは、異なる理由によって病原性を発揮できなくなった複数の変異ウィルス間で遺伝情報の交換が起き、しっかりとした病原性を再獲得するまでに時間がかかるためかもしれない。

おわりに

ウィルスの変異の蓄積によって感染性、病原性が低減したことが第一波の収束につながったのかもしれません。第二波が収束しそうな気配がありますが、これも同じ理由によるのかもしれません。次の記事では、「感染の波」がどのように形成されるのか、量的効果を踏まえて考察し、今後どのようなことに注意を払うべきか考えます。

新型コロナウィルスの弱毒化についての考察

はじめに

新型コロナウィルスは今後どのように変化していくのだろうか?弱毒化するのだろうか?考察する。

お断り

この記事の内容は考察にすぎません。筆者は進化の専門家ではなく、内容について保証するものではありませんのでご了承ください。

先に、結論

  1. 病原性が低下した亜種が大部分を占める状況に向うはず。すでにそうなっているかもしれない。
  2. 「新型コロナウィルス」としてひとくくりにするのはもはや適切ではないかもしれない(病原性にしたがってクラス分けをするなどの工夫が必要)。

背景

新型コロナウィルスは2019年の12月に登場した。およそ30 kbのゲノムサイズであり、2週間に1塩基程度の変異速度である。

変異について

ダーウィンの進化論にのっとって考えれば、生物のゲノム情報には一定の割合で変異が入り、これによって集団に遺伝的な多様性が生まれ、このなかから生存に適したものが生き残ることで、生物は進化する。ほとんどの変異(核酸レベルでの)は、生物の形質に影響を与えないが、少数の変異は、形質に影響を与える。ただし形質に影響を与えるような変異のほとんどは有害な変異であり、有益となる変異は(無視はできないが)まれであると考えられる。ウィルスが生物であるかどうかはこの際置いておくが、この進化論的考え方はウィルスにも当てはまる。

例えば、ウィルスのゲノム1塩基ごとに変異を入れたり、あらゆる場所に挿入や欠失を導入して、あらゆるパターンの変異体についてその病原性を測定できたとする。実際はこのような実験は不可能であるが、もし可能であったとして、病原性が高い順に並び替えて、その病原性をプロットしたら、図のようになるはずだ。

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生じる変異体の病原性分布の想像図

変異が、その生物(含ウィルス)にとって基本的には有害であることは、正しいことのように思われる。

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分子遺伝学が驚異的によくわかる ISBN4-8269-0060-0 C0345 P1800E ラリー・ゴニック、Mホイーリス著 白揚社

短期的な視点と長期的な視点

ウィルス進化については、長期的な視点と、短期的な視点から考察する必要である。長期的な視点は、数十年から数百年のタイムスケールの話であって、変異体間の競合が十分進んだ場合の話である。ここでは長期的な視点からの考察し、ついで短期的な視点からの考察を述べる。

長期的な視点

長期的には、変異によって多様性を獲得したウィルス集団から、生存に適した変異体が選択されることになる。選択によってウィルスにとって有害な変異は淘汰される一方で、有利な変異は固定される。

特に感染性に注目すると、感染性が低下した変異株は徐々に淘汰される一方で、感染性が向上した変異株は、徐々にその数を増す。

感染性が具体的にどのような遺伝子機能によって決定されているのか不明であるが、宿主のくしゃみや咳をより強く頻繁に誘導する形質、感染性のウィルスを排出する期間を長引かせる形質、空気中を遠くまで漂う形質、宿主の免疫系をかいくぐる形質、等が感染性に関与していると考えられる。これら感染性に関わるウィルスの形質については、選択圧が働き、より強化される方向にウィルスは進化するはずである。

一方で、宿主を重症化させたり死亡させたりする形質はどうか?サイトカインストームや血栓を誘発して宿主を死に至らしめるような形質は、選択上、どちらかといえば不利にあると考えられる。

長期的には、変異と選択が繰り返される結果、感染性が増す方向、病原性が低下する方向へとウィルスは進化するはずである。「ウィルスが強毒化しないのは、変異によって強毒化したウィルスが宿主を殺してしまいそれ以上広がれないからである」との表現よりも「強毒化した変異体が、生存上有利となることはなく、選択されないから」と表現するのがよりしっくりくるように思われる。

ただし気をつけたいのは、強毒株は、長期的には淘汰される(=選択されない)であろうが、短期的には発生する可能性があるという点である。

短期的な視点

現在は感染拡大期であるが、ヒトの大多数は免疫を持っておらず、ウィルスはヒトからヒトへと伝播している。この間、ウィルスゲノムには一定の割合で変異が導入されつづける。このとき再生産能力が全く失われたようなウィルス変異体はすぐに淘汰されるが、少々の変異は維持・固定される。変異のほとんどは形質に影響を与えないが、影響を与える変異のうち、ほとんどはウィルスにとって悪影響のある変異である。従って変異が次々に入るにつれて、感染性、病原性ともに低減する。

感染性が一定程度低下すると、その変異株は伝播しにくくなり、集団中の存在割合を減らすだろう。ただし短期的には、そこまで感染性は低下しないと考えれば、短期的には大多数が感染性、病原性ともに低減したウィルスとなる。感染性、病原性が低下してない株の割合はわずかとなり、感染性、病原性が向上した株の割合はごくわずかとなるはずである。おそらく現在、この状況になっているか、少なくとも近づきつつあるはずである。2週間で1変異であれば、おおよそ30 kbのゲノム配列に対して16変異程度が入っているはずであり(執筆現在2020年8月20日)、これはいくばくなりともなんらかの遺伝子機能を低下させ始めていてもおかしくはない。

図は、病原性カテゴリーなるものを考え、カテゴリーS、A、B、C、Dの順に病原性が高いものとしたときに、これらの移り変わりの様子の想像図である。このような、病原性が低下したものの割合が次第に増加するような遷移、いわば「弱毒化遷移」が起こるはずである。

地球上に広がった新型コロナウィルス全体を見渡せば感染性、病原性が低下しない株も一定程度、確率にしたがって維持されているはずであるということには注意しなくてはならない。

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時間経過に伴ってウィルスの病原性が低下する様子の想像図

これらを踏まえて何をすれば良いか

  1. クラスター追跡をしっかり行い、そのクラスター株の病原性をカテゴリー分けする努力をすべきだ。データ解析をしっかりすれば、60歳以上が100人かかってもだれも重症化していないからカテゴリーCであるとか、分類できるかもしれない。強毒株とそうでない株を分けることができれば、経済への影響も少なくなるはずだ。病原性が甚だしく低下したクラスター株が見出されれば、天然ワクチンとして使用できるようになるかもしれない。

  2. データ解析には、データが必要である。統一規格でのデータを収集する仕組みと、データを(個人情報に配慮しつつ)無制限に公開する仕組みが必要だ。民間、大学にはデータ処理ができる人が多数いるが、データにアクセスできる状況にない。ここでデータはグラフにするなどの処理をする前の生データのことである。すでに処理されたデータはそれ以上の処理が難しい。

  3. ゲノム配列を徹底的に読むことが有効だ。1ウィルスゲノムを1つ読む実費はPCR検査費用(2万円)よりも安いと考えられる。大学など既存の施設を使いシステマチックな解析ラインを作れば10億円で1万ウィルスゲノムを1年間で読むことができるだろう。全国10拠点に100億円かければ全患者の配列解析が可能だ。政府主導で手を挙げさせてみれば良い。

  4. 「新型コロナウィルスが弱毒化した可能性がある」という表現は危うい。「弱毒化した新型コロナウィルス亜種が広がりつつある可能性がある」と表現すべきだ。

  5. 引き続き、外国からの帰国者入国者の検査を厳重にすべきだ。海外から、病原性が維持された株が入り込まないように気をつけなくてはならない。

おわりに

2つの考え方、すなわち

  1. 「変異は、ウィルスの形質にとって影響を与えないものが大部分であり、影響を与える変異の大部分は、ウィルスにとって有害な変異である」
  2. 「ヒトからヒトへと次々に伝播する環境下では、直ちにウィルス再生産が不可能になるような変異以外は(短期的には)淘汰されない(ウィルスにとって少々有害な変異も維持される)」

が正しいのであれば、論理的な帰結として、ウィルスのあらゆる形質(感染性、病原性など)が、短期的には、全体として、劣化、低減していく、というのは正しいように思えます。今がどの段階なのか、わかりませんが、「病原性が低下した様々な亜種が次々に生じて大部分を占めるようになる」、というのが私の推測です。

病原性低下を促進するのにマスクが有効かもしれない、という考察想像について次の記事で書きます。この考察想像が正しければ、山中先生のおっしゃるファクターXは、ディスタンシングがもたらした病原性低下の促進かもしれません。

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